【書評】下級国民は上級国民の養分?「上級国民/下級国民 」は冷徹な本

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昔から「勝ち組/負け組」という言葉はありましたが、2019年4月19日に起きた高齢ドライバーが起こした事件をきっかけに、ネット上では「上級国民」というワードが流行しました。

ただ、「上級国民」は重大事件を起こしても逮捕されない特権を持った(かのような)国民を指すネットスラングに過ぎず、「上級国民」というワードに意味はありません

 

本書は、上級国民というワードが生まれた社会的背景と、上級国民の陰には、多くの「下級国民」の存在がいることを暴き出しています。

 

下級国民とは、経済的にも性愛的にも搾取され、社会から排除された人々です。

 

 

本書でわかること

・なぜ下級国民が生まれたのか?

・なぜ上級国民と下級国民に社会が分断されているのか?

・知識社会で生き延びるには?

 

 

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なぜ上級国民という言葉が広がったのか?

上級国民が社会的に広がったきっかけは、2019年4月19日に発生した池袋で発生した高齢ドライバーによる死傷事故です。

しかし、事故を起こしたにもかかわらず、逮捕もされないことから、国民から疑問の声があがりました。

そして、大きく注目と非難を集めたのが、加害者である高齢ドライバーが元通産官僚の大幹部であり、瑞宝重光章も受賞し、大企業の副社長も就任しているほどのエスタブリッシュメントだったためです。

 

「元官僚の大幹部だから、逮捕されないに違いない!」

 

事件の重大性と加害者のプロフィールから、重大事故を起こしたにも関わらず逮捕されない「上級国民」という言葉が広く浸透することになりました。

 

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「上級国民/下級国民 」ってどんな本?

本書は多くの経済・社会論を手掛けてきた橘玲氏です。

 

上級国民とは中高年であり、下級国民とは若者

本書では、上級国民とは中高年(団塊世代)であり、団塊世代の既得権益を守るために、多くの下級国民が生まれることとなったことを指摘しています。

団塊世代の既得権益の最たるものは、「終身雇用」です。

バブル崩壊で日本経済は壊滅的な打撃を受け、大規模なリストラが行われましたが、それでも日本の長期終身雇用は温存されました。

終身雇用を温存した結果、団塊ジュニアの雇用機会が奪われ、就職氷河期に突入しました。

つまり、下級国民とは中高年(団塊世代)の雇用を守るために犠牲になった若者(団塊ジュニア)のことなのです。

 

下級国民は安定した雇用はもちろん、恋人といった性愛の機会にも恵まれず、社会からも排除されてしまう運命にあるとデータに基づいて言及しています。

 

上級国民・下級国民に分断されるのは不可避?

上級国民・下級国民というトレンドは日本特有のものではなく、グローバルなトレンドであることを指摘します。

このようなトレンドを著者は「リベラル化」と呼び、かつての封建社会と違って、個人が自由に生きられる代わりに、すべて自己責任を問われる社会トレンドがグローバルに広がっていることを指摘します、

つまり、リベラル化とは、能力主義の社会であり、実力がある人にとっては多くの富を稼げる一方で、能力が劣る人にはそれなりの生活しか約束されないということなのです。

また、能力社会であるため、しっかりと教育を受けて、知識が高い人はさらなるキャリアアップにつなげることができますが、教育を受けない人はブルーカラーの低収入の仕事しか就けません。

つまり、リベラル化=能力社会=知識社会ということです。

 

教育が上級国民・下級国民の格差を拡大する?

「知識社会というんだったら、教育の機会を充実したらいいんじゃない?」

しかし、橘氏は、教育こそ上級国民・下級国民の格差を広げる格差拡大装置であるという衝撃的な指摘をしています。

そもそも、教育が重要として大学無償化をすすめたところで、学校や勉強に適応できない子供たちを苦しめているという事実を見落としています。

とはいえ、勉強をするかどうかは、リベラル化する社会では、自己責任とされており、勉強をしないと、知識社会では低収入の仕事にしか就けないのは、自己責任とされるわけです。

なので、勉強が得意な子供たちは、機会に恵まれる一方で、勉強が苦手な子供たちは、取りこぼされていくわけですね。

 

知識社会を生き述びるには?

これからも自由な生活を謳歌できますが、自己責任を問われる社会は変わりませんが、一方で下級国民に落ちてしまうリスクが残ります。

そんな知識社会を生き延びる方法は、2種類です。

 

知識社会を生き延びる方法

・高度化する知識社会に最適化した「人的資本」を形成する

・SNSなどで多くのフォロワーを集めた「評判資本」でマネタイズする

 

これらの働き方はインターネットが普及した情報社会である現在だからこそ成立する生存戦略であり、一つの組織にとらわれずにフリーエージェントとして自由に生きていける働き方です。

なお、この生存戦略については、橘氏の他の本で詳しく述べられているので、そちらを参照すると良いでしょう。

 

【まとめ】知識社会をサバイブするために必読の本

上級国民とは、現在は中高年(団塊世代)を揶揄した言葉ですが、今後も団塊世代がリタイアしたことで莫大な社会保障費が必要となります。

しかし、日本では社会保障制度改革は、団塊世代という最大の票田の反対にあうため、大胆な改革はできないでしょう。

その結果、多くのツケは、若者が被ることになります。

これからは会社は組織に頼ることなく、自力で生計を立てるスキルが必要となります。先が読めない時代だからこそ、本書を読む価値があるといえます。

新書ですし、1,000円以内なので、非常にコスパは高いといえます。