全日本自治団体労働組合(自治労)は79万人を抱える日本最大級の官公労の全国組織ですが、その頂点に君臨するのが、今回紹介する川本淳委員長です。
自治労の委員長は、自治労のトップとして、公務員の労働運動はもちろん、支持政党である立憲民主党や社民党を通じて、政治的な力を持っている労働政治界でも一定の力をもつ事実上の権力者です。
とはいえ、現在の川本委員長は、もともとは北海道中川町という、人口1800人足らずの町役場職員でした。では、そんな田舎の小さい自治体の職員が、全国最大の官公労のトップに立てたのでしょうか?
そこで、今回は自治労のトップ、川本委員長のキャリアを振り返りたいと思います。
川本淳氏の経歴とプロフィール
川本淳委員長は、現在は自治労の執行委員長という立場ですが、もともとは北海道那賀川町役場の職員でした。
1981年に北海道那賀川町役場に入職して、入職直後から組合に加入して、現在のJR労組、かつての国鉄労組の事務所に呼ばれて、組合活動の労働組合についての講義を受けました。
その後、月一回の研修を経て、地方公務員制度、賃金制度といった組合活動の必須知識を学び、労働運動家としての基礎を培うこととなりました。
同時、官公労以外の国鉄、郵便局、営林署、教員、北海道庁といった職場を超えた別の組合員と人脈をつくっていきました。
詳細は、あとで紹介しますが、日本の労働組合の歴史に残る国鉄分割民営化反対運動や幌延⾼レベル放射性廃棄物処理施設誘致反対運動といった労働運動を関わりました。
2005年に中川町役場を退職し、自治労北海道本部に参画し、本格的な労働運動家として活動、県本部から、中央の自治労の書記次長、書記長へと、順調にキャリアアップをして、2015年に自治労のトップである中央執行委員長になりました。
なお、自治労も加入している国内労働組合のナショナルセンターである連合のナンバー2である会長代行に就任しています。連合の加盟組合員数は700万人であり、立憲民主党最大の支持団体です。
北海道本部は自治労の中でも別格の存在感
ここで、参考知識ですが、北海道という地域は、知る人ぞ知る、労働組合運動が非常に積極的な地域です。その証拠として、北海道は立憲民主党の国会議員は衆参含めて、10人いるわけです。
また、かつては北海道知事は立憲民主党のルーツの一つである日本社会党の議員であった横路孝弘氏が北海道知事を務めていました。
これだけ、北海道において立憲民主党が強い土地柄の背景は、立憲民主党の支持母体が労働組合だからです。
そんな労働組合において組織力、機動力がある産別が自治労です。実際に選挙時には自治労組合員がフルで動きますので、自治労北海道県本部は、全国でも屈指の存在感を持っています。
実際、自治労の歴代委員長16人中、現在の川本委員長を含めて5人であり、単純に考えても3人に1人が北海道出身者というのは驚きです。また、自治労の中央の主要ポストも自治労北海道本部から輩出しています。
それだけ、北海道本部は別格の存在感があるんですね。
川本淳氏が出世をした理由は?
組合員が頭角を出すために必要な条件として、労働運動への従事です。労働組合なので、当然ながら、賃金の確保、労働条件の改善という本来の運動はもちろん、暮らしに密着する反対運動を展開することです。
沖縄の基地問題でもそうですが、労働運動はとにかく「反対運動」ですので、そこに従事することが頭角を出すチャンスなんですね。
この反対運動は、労使協調路線とする旧同盟の労組とは異なり、自治労が加盟していた総評系の特徴ですね。
例のごとく、川本委員長も以下の労働運動に従事しました。
国鉄分割民営化運動
川本委員長が労働運動に参加し、1982年であり、折しも時の政権は、民営化を強く推進していた中曽根康弘政権でした。
そんな民営化路線に強く反対していた抵抗勢力の急先鋒が、国鉄労組であり、その中でも北海道の国鉄労組は大きな存在感でした。結果的に1987年に国鉄はJRとなって分割民営化されるわけですが、その時も若手組合員として、川本委員長は反対運動に従事しました。
幌延⾼レベル放射性廃棄物処理施設誘致反対運動
同じく1980年代には、北海道幌延町に原子力関連施設を誘致する動きに対して、自治労も反対運動を展開しました。というのは、北海道の基幹産業である酪農産業への風評被害につながる可能性があったためです。
そんな中で、1983年に自治労が推す社会党の横路氏を知事にすることに成功し、もちろん、横路知事は自治労の主張と同じく放射性廃棄物処理施設誘致反対の立場をとりました。
その後、2000年に「北海道における特定放射性廃棄物に関する条例」を制定し、廃棄物の受け入れを困難とし、廃棄物を持ち込まないという条件で、幌延深地層研究センターが設置されています。
ちなみに川本淳委員長の半生については、YouTubeで紹介動画がありました。
自治労委員長を目指すなら選挙に勝つことが条件
自治労も圧力団体の1つですので、その存在感を出すためには多くの組織内候補者を当選させることです。先ほど説明したように、北海道は多くの国会議員や地方議員を輩出するほどの、労働組合が強い土地柄です。
今度の北海道知事選挙も、自治労は候補者を擁立しています。
現在の北海道知事は自民党系ですので、仮に立憲民主党系が当選すれば、労働組合の存在感が増すでしょう。
また、同じく自治労の組織内候補として、これまた北海道の旧栗沢町役場(現岩見沢市)の職員を支援しています。
このように政治的な運動の中で、実力を示すことができれば、自治労の委員長になれるわけですね。
結論としては、選挙運動と労働運動(反対運動)、これが自治労のトップとなる条件だということです。
参考資料
川本淳|自治労中央執行委員長 – 財界さっぽろ
私䛾半生と労働運動~一人ひとりが行動すること~(現在リンク切れ)
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組合員79万人を抱える自治労は、非常に強い圧力団体です。労働政治を語るうえでは無視できない存在ですね。
地方公務員も選挙活動が一定の範囲は可能ですので、自治労の組合員として出世したいならば選挙活動への従事は必須ですね。
地方公務員の出世にも、職員として出世するから、組織内候補となるか、自治労本部職員となるかといったルートがいくつ用意されています。