公務員として働きながら、労働組合の役員をしていると、ときどき「公務員に労働組合は不要だ」という意見を聞きます。
確かに、公務員は民間企業と違って、強い身分保障が与えられており、よほどの不正行為が無い限り、クビになることはありません。
そのように考えると、公務員の労働組合というものは、必要なのか?と考える人もいるのですが、実際に過去に多くの公務員がクビにされたことがあったのをご存知でしょうか?
公務員は法律で身分保障がされている
確かに、公務員は民間企業と異なり、法律でしっかり保障されています。例えば、国家公務員であれば、国家公務員法75条と人事院規則11-4でしっかり身分保障が規定されています。
国家公務員法75条
(身分保障)
第七十五条 職員は、法律又は人事院規則に定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、休職され、又は免職されることはない。
(本人の意に反する降任又は免職の場合)
第7条 法第78条第1号の規定により職員を降任させ、又は免職することができる場合は、法第72条の規定による勤務評定の結果その他職員の勤務実績を判断するに足ると認められる事実に基き、勤務実績の不良なことが明らかな場合とする。
2 法第78条第2号の規定により職員を降任させ、又は免職することができる場合は、任命権者が指定する医師2名によつて、長期の療養若しくは休養を要する疾患又は療養若しくは休養によつても治ゆし難い心身の故障があると診断され、その疾患又は故障のため職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないことが明らかな場合とする。
3 法第78条第3号の規定により職員を降任させ、又は免職することができる場合は、職員の適格性を判断するに足ると認められる事実に基き、その官職に必要な適格性を欠くことが明らかな場合とする。
4 法第78条第4号の規定により職員のうちいずれを降任し、又は免職するかは、任命権者が、勤務成績、勤務年数その他の事実に基き、公正に判断して定めるものとする。
また、地方公務員も国家公務員同様に、地方公務員法78条でしっかり身分保障がされています。
地方公務員法78条
(本人の意に反する降任及び免職の場合)
第七十八条 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、人事院規則の定めるところにより、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
一 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
二 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
三 その他その官職に必要な適格性を欠く場合
四 官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合
つまり、勤務成績が極端に悪かったり、メンタルに問題があった場合でないと分限免職はされないということです。
また、定員の改廃や予算の減少(自治体が財政的にひっ迫した時など)も同様に分限免職をすることができます。
なぜ公務員の身分保障は強力なのか?
公務員は民間サラリーマンに与えられている労働基本権の一つである争議権(スト権)が制約されているため、公務員は強い身分保障が与えられています。
また、争議権と同じく、労働基本権の1つである団結権が制約されていますので、公務員が構成するの組合はあくまでも、労働組合ではなく、「職員団体」というのが正確な定義なのですね。
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また、公務員は強い身分保障があり、リストラをして失業するリスクが少ないため、民間サラリーマンが当たり前に持っている雇用保険の適用除外となっています。つまり、失業手当ももらえません。
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このように、公務員の雇用というのは、定年退職までは基本的に整理解雇を予定していないということが制度からも伺うことができますね。
過去に公務員が大量にリストラされた事件
とはいえ、強力な身分保障をもつ公務員ですが、過去に大量の公務員がリストラされた事件がありました。
2008年9月末、千葉県銚子市は、市立病院の休止に伴い、看護師など185人を分限免職(事実上の整理解雇)とした。
そして昨年12月末には、社会保険庁の廃止に際して、525人の職員が分限免職処分を受けた。このうち12月末時点で再就職先が決まっていなかった112人は、失業を余儀なくされた。
千葉県銚子市は、病院廃止に伴う人余りが原因で分限免職(リストラ)に踏み切り、社会保険庁は、日本年金機構への移行に伴うことで多くの職員の分限免職につながりました。
ただ、社会保険庁は「消えた年金問題」や「宙に浮いた5000万件」の背景もあり、分限免職止む無しという空気があったのも事実です。そこらへんのことは、過去の記事で言及しているので、興味がある方はご覧ください。
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これから公務員の大量リストラ時代が来る?
今後、人口減少と少子高齢化で行政ニーズが増える一方で、歳出削減を目的とする行政改革を進無ことが予想されます。具体的には、AIやRPAを活用して、人手があまり要らないような組織運営に向かっていく方向になります。
実際に、総務省が提案している自治体戦略2040の中においても、スマート自治体という考え方が提示され、今後、人員を省力化していくことを示唆しています。
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こんな状況の中で、職員一人が当局に抵抗しても、無視されてしまうかもしれませんが、労働組合が役所にあれば、数の力で一定の抵抗運動をすることができます。
実際、先ほどの社会保険庁の大量の分限免職も、自治労をはじめとした公務員の労働組合が水面下で調整したことで、再就職先に確保に多くの職員がつながりました。
今後、ますます厳しくなる財政事情の中で、真っ先にやり玉にあがるのは公務員給与であり、公務員の雇用だと思います。そのためにも、労働組合の存在価値は消えることはないと考えます。
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なお、今回の主なテーマは分限免職でしたが、不正行為をしたときは、全く違う種類の懲戒免職ということになります。