全国的に労働組合の組織率は低下傾向にあるなかで、ひと際目立つのが、地方公務員系労働組合の全国組織「自治労」の組織率です。
全国平均が17%に対して、自治労の組織率はなんと「70%」です!しかも組合員数は約79万人であり、いかに影響力が高いかということがわかるかと思います。
高い組織率を誇り、政治的にも影響力をもつ自治労ですが、今回はこの自治労の強さの秘密について考えていきたいと思います。
自治労の正式名称は?加盟単組の数は?
自治労の正式名称は「全日本自治団体労働組合」といい、各自治体に存在する労働組合を束ねる連合体です。
基本的に組合員は、地方公務員を対象としており、地方自治体の行政職、現業職、公営企業の職員等となっております。
加盟する単組は2,708となっています。
自治労の組織率は?
厚労省が発表した平成29年労働組合基礎調査によれば、総組合員は79万人となっています。
また、組合の組織率についても70%となっており、非常に高い組織率を誇っているといえます。組織率については、正確なデータが見つからなかったのですが、自治労中央執行委員長の川本氏がインタビューの中で答えています。
――自治労の組織率は。
川本 7割前後です。連合を結成した時、全労連(全国労働組合連合会)と分裂したことが大きい。やはり職場に2つの組合があれば「どちらも選べない」という理由で入らない職員も出てきますから。
自治労の組織体制は?
自治労は79万人の組合員を抱えるわけですので、組織体制も強固です。春闘といった労働組合の「本業」である組合交渉や、支持政党である立憲民主党への政策提案など幅広く活動を行っています。
まず、各市町村単位に結成された単組(2,708組織)を束ねるのが、各都道府県ごとに設置された県本部です。
県本部をサポートするエリアマネージャー的役割を果たすのが、地区連絡協議会であり(北海道・東北・関東甲・北信・東海・近畿・中国・四国・九州)の9地区に置かれています。
基本的にエリア単位なのですが、北海道は自治労執行委員長を数多く輩出している「自治労王国」ということもあり、北海道単独で地区連絡協議会を設定しています。
そして、これら単組、県本部、地区連絡協議会を統率するのが、自治労中央本部です。
中央本部は、中央執行委員長を頂点として、書記局、財政局、といった形で組織体制が築かれています。
また、書記局の下に総合企画総務局、総合労働局、総合政治政策局、総合組織局、総合公共民間局などいった構成です。
ここまで組織化が進んだ労働組合だからこそ、全国規模の労働運動を展開できるというわけですね。
自治労トップの中央執行委員長とは?
自治労のトップは、中央執行委員長であり、全国にいる組合員の中から選出されます。
現在の川本淳委員長は、もともとは北海道の町役場の職員でしたが、現在は79万人いる自治労のトップである執行委員長として君臨しています。
現在の自治労委員長のプロフィールについては、下記の記事で紹介しています。
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自治労の目的は?
自治労は多岐にわたる活動を行っていますが、基本的に労働組合ですので、地方公務員の勤務条件の改善・維持が一番の使命としています。
1 組合員の生活水準を向上させ、労働者の権利を守る
自治労は、一人ひとりの組合員がゆとりを持って暮らせるよう、賃上げ、労働時間の短縮、必要な人員の配置、安全で快適な職場環境の確保などに取り組んでいます。また社会的にも年金や社会保障制度を充実させる活動を行い、トータルな生活水準の向上をめざします。実際に、制度や法律の設計や改正など必要に応じて、政党請願行動、省庁交渉、首長交渉などを行い、組合員だけではなく労働者の生活と権利を守るために行動しています。
2 やりがいのある仕事が出来るように
私たちは、公共サービスを支える仕事をしています。そして、多くの組合員が住民・顧客に喜ばれ、自らも役に立っていると実感できる仕事がしたいと思っています。自治労は賃金・労働条件の改善だけでなく、やりがいのある仕事が出来るよう、住民や地域団体、企業、学識者と協力しながら地方自治研究活動(労働組合が主体的に、地方行政や自治体政策、公共サービスや自らの仕事のあり方について研究し、実践する活動)に取り組んでいます。自治労は地方自治研究活動を通じて、情報収集、研究分析、政策づくりを提言しています。実際に、現在多くの自治体で実施している「ごみの分別収集」「急病人の休日・夜間診療」は、自治労の自治研活動から実現した制度です。
3 社会正義を実現すること
豊かで平和な暮らしは、職場の中の活動だけでは実現できません。地球的規模で起きる環境破壊や経済格差、戦争など現代社会はたくさんの問題を抱えています。それは、毎日の生活に直接的に影響する問題から、間接的に影響するものまで、広範囲にわたります。こうした個人では解決できないことでも、労働組合という組織で力を合わせ、大きな力とすることで問題の解決に近づけます。自治労はさまざまな団体等と連携し、“社会正義”の実現をめざします。その取り組みの一環として、自治労は原発再稼働を許さない取り組みや戦争につながる施策に反対する取り組み、賃金関係で言えば連合に結集して春闘に積極的に参加しています。
4 労働者の助け合い活動の実践
組合員が過ごしやすい環境づくりのために、「自治労共済」という非営利運営による福祉事業に取り組んでいます。2013年6月以降は「全労済自治労共済本部」として大きく助け合いの輪を拡大し活動しています。サービスの提供により、日々の生活に必要な保険料などを抑制し、より多く組合員の可処分所得を確保します。
目的の一つである社会正義の実現として、反戦、原発再稼働反対など、ややリベラル色が強いことから、「自治労=左翼」というイメージがついているようです。
とはいえ、実際に沖縄での基地反対デモ・平和行進、原発反対運動など、労働者の権利向上運動以外も行っているので、やはり自治労は左翼的と言われるのは、一定やむを得ないですね。
自治労の上部団体は?
自治労は、公務員労組を取りまとめる全国組織ですが、自治労も加盟する上部団体が日本労働組合総連合会、通称「連合」です。
連合に加入している組合員数は、700万人であり、事実上の日本の労働組合をナショナルセンターです。
自治労は、連合に加盟している産業別労働組合の中では、組織率が70%と高く、自治労のトップである委員長は、連合のナンバー2である会長代行を務めています。
自治労が支持する政党は?
自治労は労働組合という側面とともに、政党を支持する圧力団体、支持団体という側面があります。自治労自体が労働組合であることから、支持する政党は、立憲民主党となっています。
自治労は30日の中央委員会で当面の国政・地方選挙の運動方針を決めた。立憲民主党の綱領や基本政策が「自治労の政策、運動方針とおおむね一致すると評価できる」と明記し、同党支持の姿勢を鮮明にした。
また、社会民主党に対しても支持をしていることから、実質、立憲民主党と社会民主党を支持するスタンスです。
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自治労の政治思想は左翼的?
自治労の目的と支持政党から、政治的スタンスは左翼的といえますね。簡単に自治労の政治的主張の特徴をまとめます。
憲法 → 護憲(改憲反対)
原発 → 脱原発・原発再稼働反対
沖縄基地問題 → 基地反対
労働組合にも、保守思想をもっている組合も存在していますが、自治労は特に左翼的な思想を持っているといえます。
このような政治思想から、自治労を敬遠する公務員も存在していますが、一方でリベラル的な思想を持つ職員もいますので、良し悪しですね。
自治労の力の源泉「組合費」と「組合員」
組合費という安定収入
自治労の組織力を維持できているのも、やはり資金力が豊富にあるからです。それも、公務員という比較的安定した雇用を保証された労働者から集められた組合費ですので、財政基盤も比較的しっかりしている印象です。
その中でも、組合費を自動的に天引きできるチェックオフ制度が自治労の活動を支えているといっても過言ではありません。
それゆえ、自治労を弱体化させるためにはチェックオフ制度の廃止を訴えている政治家や活動家も存在しますが、その指摘はその通りだと感じます。
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単組ごとに専従職員を配置
資金力だけでなく、単組ごとに実務を担う専従が存在しています。専従がいるかいないかで、組織としての機動力が違います。組合交渉や職員レクリエーション事業、組織内議員の選挙活動など、動けるスタッフがいるというのは、やはり強いですね。
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結局のところ、組織力の基盤は「資金」と「マンパワー」といえます。これらを備えているからこそ、自治労が最強労組と言われるわけですね。
自治労は自治労共済というサイドビジネスも行っている
さらに、組合費だけでなく、自治労は、自治労共済という保険商品の運営・販売も行っています。
この自治労共済も、自治労の重要な資金源です。
正確には、自治労共済は、こくみん共済の職域共済ですが、自治労共済の契約書が多いほど、こくみん共済から保険料の一部が、自治労に協力金という形でキャッシュバックされる仕組みなのです。
実際、自治労共済は、お手頃な掛金の割には、保障内容が充実していることもあり、自治労共済の加入を目当てに自治労に加入する職員もいます。
なお、自治労共済は下記の記事で紹介しています。
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【まとめ】組織率が高い自治労は、日本の労組では最強?
私自身も自治労傘下の単組に所属して役員をしていますが、思った以上に自治労の組織力というのは、大きいことを実感しました。
今後も自治労の実態についてわかりしだい更新していきたいと思います。
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自治労に比べて規模こそ小さいのですが、同じく全国組織として「自治労連」が存在します。自治労と自治労連ですが、非常に仲が悪いで有名なのですが、その違いについて解説しました。