一般的に公務員は政治的に中立と言われていますが、案外知らない人も多いのですが、地方公務員の選挙活動及び政治活動は法律上、合法です。
「えっ、公務員は政治的中立があるから政治活動は無理でしょ?」
と思う人も多いと思いますが、実は可能なんです。
公務員で選挙活動をしなくてはならない人の大半は、労働組合に加入している公務員だと思います。
「今度の選挙で組織内候補の選挙活動を手伝うことになったけど、公務員はセーフなの?」
「選挙活動したことで、処分とかされないかな?」
そんな不安を抱えて選挙活動を手伝うことになった組合員も多いと思います。
私自身も労働組合の執行委員になったばかりのときに不安がありましたが、当時の労働組合の書記長(組合のナンバー2)に尋ねると、法的にクリアしているとのこと。※当局(役所の総務部、人事課)にも確認済みということでした。
そこで今回は、公務員でもできる選挙活動・政治活動について説明します。
この記事でわかること
・地方公務員の選挙活動を制限する地方公務員36条とは?
・現業職員は、地方公務員36条の対象外である理由とは?
・地方公務員が制限されている政治・選挙活動の具体例とは?
地方公務員の選挙活動を制限する地方公務員法36条とは?
ここで公務員の選挙活動を規制する基本的な法律の知識をおさえておきます。
地方公務員には、政治的行為を制限するルールとして、地方公務員法36条が存在します。条文は以下のとおりです。
地方公務員法36条
(政治的行為の制限)
第三六条 職員は、政党その他の政治的団体の結成に関与し、若しくはこれらの団体の役員となつてはならず、又はこれらの団体の構成員となるように、若しくはならないように勧誘運動をしてはならない。2 職員は、特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、あるいは公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、次に掲げる政治的行為をしてはならない。
ただし、当該職員の属する地方公共団体の区域(当該職員が都道府県の支庁若しくは地方事務所又は地方自治法第二百五十二条の十九第一項の指定都市の区に勤務する者であるときは、当該支庁若しくは地方事務所又は区の所管区域)外において、第一号から第三号まで及び第五号に掲げる政治的行為をすることができる。
一 公の選挙又は投票において投票をするように、又はしないように勧誘運動をすること。
二 署名運動を企画し、又は主宰する等これに積極的に関与すること。
三 寄附金その他の金品の募集に関与すること。
四 文書又は図画を地方公共団体又は特定地方独立行政法人の庁舎(特定地方独立行政法人にあつては、事務所。以下この号において同じ。)、施設等に掲示し、又は掲示させ、その他地方公共団体又は特定地方独立行政法人の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させること。
五 前各号に定めるものを除く外、条例で定める政治的行為3 何人も前二項に規定する政治的行為を行うよう職員に求め、職員をそそのかし、若しくはあおつてはならず、又は職員が前二項に規定する政治的行為をなし、若しくはなさないことに対する代償若しくは報復として、任用、職務、給与その他職員の地位に関してなんらかの利益若しくは不利益を与え、与えようと企て、若しくは約束してはならない。
4 職員は、前項に規定する違法な行為に応じなかつたことの故をもつて不利益な取扱を受けることはない。
5 本条の規定は、職員の政治的中立性を保障することにより、地方公共団体の行政及び特定地方独立行政法人の業務の公正な運営を確保するとともに職員の利益を保護することを目的とするものであるという趣旨において解釈され、及び運用されなければならない。
地方公務員法より引用
ここで、勘違いしないで欲しくないのが、この法律をもって地方公務員のすべての政治活動が禁止!というわけではないということです。
また選挙については、当然公職選挙法も重要となるのですが、これは非常に膨大になってしまうので、その都度説明します。
では、以下では、基本的に地方公務員36条を踏まえたうえでポイントごとに解説します。
現業職員、専従職員は地方公務員36条の対象外
そもそも、地方公務員法36条が選挙活動を規制している対象は、地方公務員の一般職のみです。
地方公務員法36条の対象外としている職員
・現業職員(ごみ収集作業員、清掃工場職員、用務員、清掃員など)
・組合の専従職員
現業職員の政治活動を規制する法律は、地方公務員法ではなく、地方公営企業法39 条 2 項です。そして原則として、現業職は政治的行為について制限はありません。
地方公営企業法より引用
(他の法律の適用除外等)
2 企業職員(政令で定める基準に従い地方公共団体の長が定める職にある者を除く。)については、地方公務員法第三十六条の規定は、適用しない。
現業職員はある程度、自由に政治活動ができることから、選挙時期には、労働組合の中では非常に重宝されます。
地方公務員が制限されている選挙活動の具体例
では、ここから本題ですが、具体的に禁止されている事項は以下のようなものです。
公務員が禁止されている政治・選挙活動の具体例
・特定の公務員が選挙活動をすること
・公務員の身分のまま選挙に出馬すること
・所属している自治体の区域内で選挙活動をすること
・特定の政党や政治団体を結成して中心人物になること
・職務時間内に選挙活動・政治活動をすること
では、以下では個別に解説していきます。
【禁止事項1】特定の公務員が選挙活動をすること
公務員という地位を利用をした選挙運動は禁止されています。
たとえば、特定の候補に投票しないと、補助金の交付決定をしない、許認可をしないといったことです。これは間違いなくアウトであり、権力の濫用です。
公職選挙法136条において、特定の公務員は選挙運動が禁止されており、公務員のなかでも非常に強い権力を持っているからです。
(特定公務員の選挙運動の禁止)
第一三六条 左の各号に掲げる者は、在職中、選挙運動をすることができない。
一 中央選挙管理会の委員及び中央選挙管理会の庶務に従事する総務省の職員並びに選挙管理委員会の委員及び職員
二 裁判官
三 検察官
四 会計検査官
五 公安委員会の委員
六 警察官
七 収税官吏及び徴税の吏員
地方公務員であれば、選挙管理委員会の職員や、住民税、資産税課といった税部門の職員が該当しますね。
【禁止事項2】公務員の身分のまま選挙に出馬すること
公務員のままで市議会議員や市長といった政治家に立候補することも禁止です。
立候補するならば、退職する必要があり、公職選挙法89条に記載されています。
(公務員の立候補制限)
第八九条 国若しくは地方公共団体の公務員又は行政執行法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第四項に規定する行政執行法人をいう。以下同じ。)若しくは特定地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第二項に規定する特定地方独立行政法人をいう。以下同じ。)の役員若しくは職員は、在職中、公職の候補者となることができない。ただし、次の各号に掲げる公務員(行政執行法人又は特定地方独立行政法人の役員及び職員を含む。次条及び第百三条第三項において同じ。)は、この限りでない。(以下 略)
【禁止事項3】所属している自治体の区域内で選挙活動をすること
地方公務員が所属している自治体の区域での選挙運動は制限されています。
例えば、奈良市役所の職員だったら、奈良市役所の区域外であれば、選挙運動が可能なわけですね。先ほどの地方公務員法36条に書いていましたね。
【禁止事項4】特定の政党や政治団体を結成して中心人物になること
特定の政党や政治団体を結成に関与し、中心人物となることは禁止されています。
結成に関与ですので、別に公務員が立憲民主党の会合や、共産党の会合、もちろん自民党の会合に出席しても問題ないのです。
【禁止事項5】職務時間内に選挙活動・政治活動をすること
当然ですが職務時間内に選挙活動、政治活動をすることです。れっきとした、職務専念義務違反です。
これが問題となったのが、ヤミ専従とながら条例の問題です。
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選挙活動の自由は、憲法21条で保障されている
地方公務員法36条は地方公務員の政治的行為の制限を規定していますが、これは労働組合の政治的行為を制限するものではありません。
なので、労働組合が特定の候補者を組織内候補として、推薦をして、所属している組合員へ周知することは違法でもなんでもないのです。(実際、どの役所でもやっていますよね。)
そもそも論として、日本国民であれば、公務員でも憲法で表現の自由の一つである、選挙活動の自由は保障されています。
第二十一条
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
また、過去の判例においても、公務員の政治活動の制限は、極めて限定的なものとされれています。
2012年12月に出された「堀越事件」「宇治橋事件」の最高裁判決は、公務員の政治活動の制限は非常に限定的であることを示しました。
判決では、
①勤務時間外に
②公の施設外で、
③公務員であることを明示せず、
④管理的地位にない公務員
が行なった政治活動は、国公法が禁止する政治活動に当たらず、また、国家公務員が行なった政治活動が国公法に違反するか否かは、「公務員の政治的中立性を損なう恐れが実質的に認められるか否か」で判断される―としました。
つまり、①~④要件を示し、一般の国家公務委員の人が休日をはじめとする勤務時間以外に、一個人としてビラを配布することは、国公法に規定する政治活動の制限に違反しないということを示した訳です。
堀越事件や宇治橋事件の判例は、地方公務員の政治活動の制限を定める地公法第36条の規定にも汎用されます。二つの事件が指摘するような事態であれば、地方公務員についても、①~④の要件は同じです。
【まとめ】地方公務員の選挙活動の制限は限定的
ここまで読んで頂いて、実際、制限している根拠法令である「地方公務員法」や「選挙管理法」については、地方公務員に関する政治活動、選挙活動に関する制限というのは、極めて限定的であるということです。
そこで、大阪市や組合に批判的な当局は、条例に罰則規定を設けるなどして対抗していますが、この条例については、違憲なのではないかという批判もあります。
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大阪市職員政治活動制限条例はやはり実質的には政治活動「全面(ほぼ全面)禁止」条例だ!(政治活動には選挙権行使等は含まれない)
しかし、大阪市のように公務員の政治活動の制限する条例を制定している自治体は、ごく少数ですので、全国的にはまだまだ、自由に地方公務員が選挙活動、政治活動はできる余地があるということですね。
最後に、全国にある公務員労組のホームページにおいて、公務員の選挙活動、政治活動について情報提供をしていましたので、非常に参考になりました。
参考記事
公務員の政治活動、選挙活動について – 自治労・八王子市職員組合
一方で、大阪市のように当局と組合がガチンコ対決しているところでは、市長サイドが公務員の選挙活動について批判的な報告書をまとめています。
本ブログは、政治的な問題を取り扱うものではありませんが、公務員の待遇が、ここ数年で改悪されている状況を考えると、選挙や政治活動を通手時、労働者としての権利を主張することは、重要だと考えます。
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公務員が労働組合の活動や、政治に関心をもって、選挙活動や政治活動を行うことも、結局は自分の自由と権利を守ることに他なりません。
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