地方創生や国土のグランドデザイン2050など、いろいろ大風呂敷を広げるがちなので国の役人ですが、今回紹介する「自治体戦略2040」の中身は、公務員の働き方を大きく変える可能性があります。
あまり地方公務員には馴染みがないかもしれませんが、自治体戦略2040の中身は、非常に思い切った中身となっており、地方公務員のリストラにつなげることが示唆されています。
自治体戦略2040とは?
では、そもそも自治体戦略2040とはなんでしょうか?
そこで、自治体戦略2040戦略を策定した自治体戦略2040構想研究会の「自治体戦略2040構想研究会運営要綱」の開催趣旨をみてみます。
今後、我が国が本格的な人口減少と高齢化を迎える中、住民の暮らしと地域経済を守るためには、自治体が行政上の諸課題に的確に対応し、持続可能な形で、質の高い行政サービスを提供する必要がある。
このため、多様な自治体行政の展開によりレジリエンス(社会構造の変化への強靱性)を向上させる観点から、高齢者(65 歳以上)人口が最大となる 2040 年頃の自治体が抱える行政課題を整理した上で、バックキャスティングに今後の自治体行政のあり方を展望し、早急に取り組むべき対応策を検討することを目的として、総務大臣主催の研究会を開催する。
「????」という感じなので、私なりの自治体戦略2040をまとめると以下のように言えると思えます。
「これからの日本は人口減少と高齢化をしていくから、税収が下がる一方で、社会保障費が増えていくので、自治体の在り方を整理するための構想」です。
この構想は自治体に関わることなので、総務省自治行政局行政課、市町村課及び行政経営支援室が置かれました。
自治体戦略2040構想研究会のメンバーは?
そんな自治体戦略2040構想研究会のメンバーは、大学教授や研究員、会社経営者といった10名です。
清家 篤 | 日本私立学校振興・共済事業団理事長慶應義塾学事顧問 |
牧原 出 | 東京大学先端科学技術研究センター教授 |
飯田 泰之 | 明治大学政治経済学部准教授 |
池本 美香 | 株式会社日本総合研究所調査部主任研究員 |
井手 英策 | 慶應義塾大学経済学部教授 |
大屋 雄裕 | 慶應義塾大学法学部教授 |
林 直樹 | 金沢大学人間社会研究域人間科学系准教授 |
松永 桂子 | 大阪市立大学商学部准教授 |
村上 由美子 | OECD 東京センター所長 |
横田 響子 | 株式会社コラボラボ代表取締役 |
2040年における日本の3つの課題と処方箋
では、ここから自治体戦略2040(以下、戦略)の中身をみてみます。
そもそも、なぜ2040を主眼に置いているかというと西暦2040年というのが、高齢者人口がピークを迎える年にあたるからです。高齢者人口がピークということは、つまり年金や医療といった社会保障費の支出がピークとなることを意味します。
・若者を吸収しながら置いていく東京圏と支えてを失う地方圏
・標準的な人生設計の消滅による雇用・教育の機能不全
・スポンジ化する都市と朽ち果てるインフラ
そのうえで、戦略の研究会2次報告書では基本的な方向性を以下のようにまとめています。
個々の市町村が行政のフルセット主義を排し、圏域単位で、あるいは圏域を越えた都市・地方の自治体間で、有機的に連携することで都市機能等を維持確保することによって、人が人とのつながりの中で生きていける空間を積極的に形成し、人々の暮らしやすさを保障していく必要がある。
人口減少が先行して進んできた県においては、県が市町村と一体となって様々な施策を展開して地域を守ろうとする動きが顕著になっている。都道府県・市町村の二層制を柔軟化し、それぞれの地域に応じた行政の共通基盤の構築を進めていくことも必要になる。
これまで自治体が個々にカスタマイズしてきた業務プロセスやシステムは、大胆に標準化・共同化する必要がある。更には、今後、ICT の利用によって処理できる業務はできる限り ICT を利用するという ICT の活用を前提とした自治体行政を展開する必要がある。
これらの方向性に共通しているのは、市町村、都道府県という枠組みを大きく再編・統合するものです。そのうえで、ICTを使って、自治体の独自システムを標準化することで、共通コストを抑制しようというものです。
つまるところ、自治体にかかるコストを抑制したいという思惑が見え隠れしますね。
そんな方向性の中で、導き出されたのが以下の4つのポイントです。
スマート自治体の転換 公共私によるくらしの維持 圏域マネジメントと二重層の柔軟化 東京圏のプラットフォームについて |
では、そんな戦略のポイントを個別に見ていきたいと思います。
スマート自治体への転換
地方公務員でいえば、2040年には、団塊ジュニアが65歳以上となります。地方公務員の大量退職による公務員不足が生じる一方で、税収が下がって公務員を任用することができないです。
そこで、従来の半分の職員数でも仕事ができるようにAIやロボティックスで仕事を自動化する仕組みを作る必要があるとされています。
また、システムにかかる費用については、市町村独自に整備するのではなく、共通のシステムを使うことで、コストも抑えつつ整備を進めるものです。
公共私によるくらしの維持
人口減少でこれまでの地域の担い手が減少していくうえで、行政と地域といった枠組みを再編しようというものです。
そのために全国的な規制を取っ払って、シェアリングエコノミーを推進したり、定年退職した人も働けるような環境整備を行うものです。また、なり手不足の町内会も法人化を進めて、組織化をすすめていくといったものです。
公務員だけでなく、地域住民も行政の担い手になってもらうということです。
圏域マネジメントと二重層の柔軟化
先ほども少し触れた、市町村間の行政のフルセット主義を脱却して、圏域単位での行政をスタンダードにするというものです。
市町村がフルセットをやめるとともに、都道府県との事務分担も柔軟化しようというものですから、そのインパクトは凄いですね。
複数で担っていたものが、統合されるわけですから、余る公務員も生まれるわけですよね。つまり、リストラの対象となるわけです。
東京圏のプラットフォームについて
東京圏は、地方圏と違って自治体財政に余裕があるため、市町村合併が進んでいない為、スマート自治体を促すものです。医療介護の体制や、今後起こるだろう首都直下地震における避難体制の構築が必要となります。
とはいえ、個々の部分についてはあまり記述がないので、この戦略の主眼ではないのでしょう。
自治体戦略の狙いは結局、公務員リストラ?
自治体戦略2040は、人口減少と高齢化が迫る日本の処方箋の一つですが、その内容は過激なのだといえます。
今までの市町村、都道府県の枠組みを柔軟化して、職員数が足りなくなる分をAIやロボットで代替するということは、現状では考えられません。
確かにテクノロジーの発展を取り込むという方向性は否定しませんが、安直な公務員のリストラ、公務員の新規採用の抑制につながることは賛成できません。
これまでの国のやり方は、市町村合併がある程度進んでから「定住自立圏」「連携中枢都市圏」という形で、圏域ベースの行政の構想を推進してきました。
現在は、同じく国が推進している地方創生のもと、全国の1700を超える自治体が総合戦略を策定して、特色ある自治体を目指しているにもかかわらず、その市町村を統合する方向性に舵を大きく切ったのですから、びっくりですよね。
結局、自治体戦略2040も安易なAIへの期待から、財政再建が主眼に置かれた公務員のリストラであれば、警戒しなくていはいけませんね。
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AIで公務員の数を減らせると思っているのですが、結局は費用対効果で決まるものですから、実現は不透明だと思います。
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少なくとも、地方公務員は産業としては斜陽です。自己責任で資産を守っていくことが必要ですね。