最近ときどき耳にする言葉が、今回のテーマである「全世代型社会保障」という言葉でです。
社会保障は、すべての日本人に関係する重要なテーマであり、今回紹介する全世代型社会保障は、日本の社会保障のモデルを根本から変える可能性があるため重要なのです。
「自分は若くて年金なんて関係ないよー」
いえいえ、社会保障は年金だけじゃないですし、いずれにしても日本の社会保障を大きく変える全世代型社会保障は知っておくべき大テーマなのです!
全世代型社会保障のポイント
全世代型社会保障とは?背景には2025年問題
全世代型社会保障とは、年金や介護、医療といった、高齢者ばかりに偏った社会保障の給付を、子育て世代にも配慮した社会保障のモデルに転換しようという考え方です。
具体的な施策の一つとしては、2019年10月始まる幼保・保育無償化です。幼保・保育を無償化することで、女性の社会復帰しやすくし、子育てしやすい社会を作るというわけですね。
どうして子育て世帯に社会保障給付を手厚くするの?
子育て支援を充実化することが軸にある、全世代型社会保障の背景には、日本の団塊世代が2022年頃から75歳の後期高齢者になり始めて、2025年にはすべての団塊世代が75歳になるということがあります。
これがいわゆる2025年問題というものです。
日本で最も人口が多い世代である団塊世代が、75歳となることで、医療や介護といった社会保障の給付が増える倍増します。
しかし、高齢者に偏った社会保障ではなく、社会保障の支え手でもある現役世代に対しても配慮した社会保障の給付に変えようというのが、全世代型社会保障の狙いです。
子育て支援を充実させることで、安心して子供を産み育てやすい環境づくりにつながり、ひいては税金や保険料を払ってくれる社会保障制度の担い手の確保につながるというわけです。
社会保障給付を手厚くするための財源は?
全世代型社会保障の特徴は、給付も全世代ですが、負担も全世代に広くを求めていくという姿勢です。
そんな全世代型社会保障の財源として代表的なものは、消費税です。2019年の10月から消費税が10%に増税されます。
消費税増税で見込まれる税収は14兆円であり、7割は社会保障の安定に使われて、残り3割は子育ての充実や、医療・年金・介護の改革に利用されます。
全世代型社会保障で年金はどうなる?
年金の受給開始年齢の引き上げ
現在の年金の受け取り開始年齢は、65歳ですが、以前から言われているように、年金の受け取り開始年齢を引き上げるというものです。
具体的に何歳に引き上げるかは確定していませんが、現在のように65歳から支給することが難しいわけですね。
また、受け取り開始年齢については、希望すれば、受け取りを前倒しすることも、先送りすることも可能なんですねが、受け取りを先送りする上限を75歳まで引き上げるという案も出ています。
厚生年金の加入義務を中小企業のパート従業員に拡大
これまでは、厚生年金に加入する義務はなかったものの、老後の生活保障を高めるために、中小企業のパート従業員も厚生年金の加入対象者に広げるというものです。
パート従業員を厚生年金に加入させることで、年金の給付水準が改善されます。
一方で、厚生年金は半分が事業者負担となるため、経営が厳しい中小企業の経営者にとっては悩ましい問題ですし、正社員に比べて賃金が少ないパート従業員も厚生年金にかかる保険料を負担する必要があるため、負担増となります。
年金給付を平等にするために、負担も平等に求めるという、全世代型社会保障の考えが反映されていますね。
在職老齢年金の廃止
在職老齢年金は、65歳以上で、働いて一定の収入がある年金生活者は、年金が減らされるという仕組みです。
しかし、在職老齢年金があることで、年金が減らされることで、年金生活者は「働いたら損!」ということになってしまうので、廃止するというものです。
もちろん、在職老齢年金が廃止されれば、65歳以上の年金生活者の就労意欲は高まりますが、その分、年金の支給額が増えますので、財源不足が生じるというデメリットがあります。
もう一つの理由は財源だ。現行制度で支給が減らされている年金額は年1兆円を上回る。
制度廃止に伴う財源の手当てはこれからで、そのまま制度をなくせばいまの高齢世代が受け取る年金が増え、将来世代にツケが回る。財務省は制度を見直す場合、高所得の高齢者に給付する基礎年金の一部を停止する制度や、年金課税の強化を併せて検討するよう求めている。
全世代型社会保障で医療はどうなる?
後期高齢者の窓口負担を2割に引き上げ
現在は75歳以上の後期高齢者の医療費の窓口負担は1割ですが、窓口負担を2割に引き上げることを検討しています。
もちろん、後期高齢者の医療費が増えることから、受益者負担を強化するという考えからでしょう。高齢者に配慮した社会保障の考え方からすれば、思い切った判断と評価できますね。
市販薬で代用できるものは保険適用外
湿布や花粉症の薬など、ドラッグストアで買える医薬品は、保険適用外とするものです。
湿布やかぜ薬…身近な薬が保険適用外に? 健保連の医療費削減案に困惑の声
医薬品には薬局などで買える市販薬と医師の処方せんを持参して購入する医療用医薬品がある。医療機関で処方されると保険が適用され、患者は1割から3割負担で済むのに対し、薬局などで買うと全額自己負担となる。厚生労働省の調査では市販品と同じ有効成分をもつ医薬品では湿布薬が最も処方されているという結果となった。病院で処方される市販品と同じ有効成分をもつ医薬品の総額は年間5000億円以上にも上る。
市販薬は、もちろん全額自己負担となりますので、その分、社会保障費の削減につながります。これから団塊世代が75歳となり、保険料が増額されていくことから、負担軽減に向けて行われるわけですね。
全世代型社会保障で介護はどうなる?
介護保険利用者負担を2割に引き上げ
後期高齢者の窓口負担を2割に引き上げるように、介護保険の本人負担を1割から2割に引き上げるというものです。
介護保険見直し 自己負担増は慎重な議論を
前提となるのが、高齢化の進展による介護費用の伸びだ。自己負担分を除く給付費は18年度で10・7兆円に上り、この10年で4兆円以上増えた。将来見通しによると、団塊の世代全員が75歳以上になる25年度は15・3兆円、高齢者人口がピークを迎える40年度には25・8兆円に急増する。
40歳以上が支払う介護保険料も上がり続けている。このうち65歳以上の全国平均は現在、月5869円で、00年の制度開始当初の約2倍。今後は25年度に約7200円、40年度には約9200円まで上昇する見通しだ。
例えば介護サービス利用者の負担割合は、原則1割を2割とするよう求める。15年8月から年収280万円以上は2割負担に、18年8月から340万円以上は3割負担に引き上げたが、利用者の91%は1割負担のままだ。原則2割になれば、負担は2倍になる。
ケアプランの作成費用を自己負担化
介護サービスを受けるためには、ケアマネジャーが作成するケアプランが必要となりますが、現状では、自己負担は不要です。
プラン作成を含むケアマネジメント費は、要支援で月4500円、要介護で月1万~1万3千円ほど。ケアマネジャーが勤める事業所に介護報酬として支払われており、利用者の自己負担はない。
しかし、財務省の審議会などは、ケアプランの自己負担化を提言していますので、介護度によっては、利用者は、数千円の負担が必要になる可能性があります。
全世代型社会保障の問題点は?
全世代型社会保障の問題点としては、現役世代だけでなく、これまで給付を受けてきた高齢者にも負担を求めているという点です。
特に医療費の窓口負担の増額や、介護サービスの自己負担の増額など、主に高齢者の負担が増えていますね。
しかし、背景にはもちろん消費税10%に増税しても、なお増えていく社会保障給付費があります。
国立社会保障・人口問題研究所は2日、年金や医療、介護などの社会保障給付費が2017年度に120兆2443億円となり、前年度と比べて1.6%増えたと発表した。介護給付費の伸びが大きくなったことに加え、子育て支援策の充実で公費支出が増えたことが背景だ。給付費は過去最高を更新し続けている。
社会保障給付費は税金や社会保険料などを財源にした給付の合計額。高齢化の進展などにより今後も増加が見込まれる。
17年度の給付費の伸び率は前年度の1.3%を上回った。給付費の内訳は医療が39.4兆円(前年度比1.6%増)、年金が54.8兆円(0.8%増)、介護など「福祉その他」は25.9兆円(3.1%増)だった。
高齢化による介護費の増加、子育て世帯向けの給付の増加と、これから社会保障給付は総額として増えていくのは流れの中で、増税社会となっていくのは止むを得ないかもしれません。
【まとめ】社会保障は国民全員で支えていく時代
これからの日本は、低成長で人口減少、高齢化が進むわけなので、財政が硬直化していく状況は変わりません。
これまでのように国債発行で、財源問題を先送りするのではなく、増税と負担増で社会保障を賄っていく必要があるのです。
団塊世代のツケを我々が払っていく時代ともいえます。
何とも言えない気持ちになりますが、今回の全世代型社会保障では、就職氷河期世代への対策も盛り込む予定です。
全世代に平等に扱う全世代型社会保障の姿勢は評価できますが、実効性のあるものにするためには、財源論と負担論から逃げることができません。