【公務員が解説】家賃滞納リスクを防ぐ「家賃代理納付制度」とは?実は落とし穴も?

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人口減少が深刻な日本において注目をにわかに集めているのが、生活保護受給者を対象にした不動産投資です。

 

「生活保護なら行政が家賃を保証してくれるから取りっぱぐれがない!」

 

そんな思惑を抱いて、あえてボロ家を買って生活保護受給者に特化した不動産投資をしようと思っていませんか?

 

・・・控えめに言っても、甘いですぞ!

 

私は生活保護行政に携わるケースワーカーとして従事した経験がありますので、生活保護制度については一定の知識があります。

そのうえで申し上げると、生活保護向け不動産投資の最大のリスクは「家賃滞納リスク」です。

 

「えっ、生活保護の家賃って、直接家主に振り込んでもらえないの?」

 

そうなんです。基本的に家主も含めた生活保護費は、家主ではなく生活保護受給者に直接支払うものです。

 

それゆえに、生活保護受給者が生活保護費を使い込んで、家主に払わないという家賃未払いリスク・家賃滞納リスクがあるわけですね。

 

そこで、生活保護向け不動産投資に付きまとう家賃滞納リスクを防ぐ、有効な手段である「代理納付制度」について紹介します。

 

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生活保護の家賃代理納付制度とは?

 

代理納付制度とは、生活保護受給者に支払われる生活保護費のうち、家賃については直接、家主に支払う制度のことをいいます。

 

そもそも生活保護費の内訳は、いくつか種類があるのですが、主に生活費に使われる「生活扶助」とは別に、生活保護受給者の家賃分として支給される「住宅扶助」が存在します。

生活保護費は毎月、住宅扶助も含めた全額を生活保護受給者に「直接」支給するのが原則です。

 

しかし、生活保護受給者の中には、賃料と支払うべき住宅扶助を払わずに自分の遊興費に消費する不届き者もいます。

また、高齢者の場合は認知症が進んだことにより、賃料を払い忘れてしまうこともあります。

 

このように、生活保護を受け入れる家主としては、ちゃんと賃料を払ってくれるかどうか不安を抱えている人も相当数いるのが現状ですね。

生活保護の不動産を持った場合、滞納リスクは常に付きまといます。

 

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そこで、生活保護の滞納リスクを抑えるために導入されたのが家賃の「代理納付制度」というわけです。

 

法的根拠は、生活保護法(昭和25年法律第144号)第37条の2及び生活保護法施行令(昭和25年政令第148号)第3条の規定により、代理納付が可能とされています。

 

先ほど、生活保護費は「生活保護受給者本人」に支払うのが原則だと述べましたが、代理納付制度を使うことで、「家主」に直接支払うことができるわけです。

 

生活保護の家賃代理納付制度のメリットは?

生活保護受給者を通さずに、直接家賃を家主に支払うことができる代理納付制度は、家主にとって多くのメリットがあります。

 

・直接、福祉事務所が家主に直接家賃を支払うので、家賃滞納リスクが無い。

・口座に振り込むので、わざわざ家賃を家主が回収する手間がない。

 

代理納付制度というのは、生活保護受給者を抱える家主にとって、滞納リスクを低減化させるうえでは有効な手段といえます。

 

生活保護の家賃代理納付制度の落とし穴とは?

 

代理納付制度があれば、生活保護の家賃滞納リスクが抑えられるから安心だ

とすれば、ちょっとお持ちください。

生活保護の代理納付制度も実は問題点があるのです。

 

【落とし穴1】そもそも代理納付制度を実施していない自治体が多い

 

代理納付制度の導入は、厚生労働省が全国の自治体に指導しているところですが、実態として、代理納付を導入していない自治体も多いです。

 

ちなみに代理納付制度を利用している自治体は、全国ではわずか17%です。

平成 30 年 7 月時点の代理納付率:17%

参考:社会・援護局関係主管課長会議資料 平成31年3月5日(火) 

 

 

それに、代理納付制度を導入するかどうかは、福祉事務所の裁量次第なので、代理納付制度を導入しないという方針ならば、そもそも代理納付制度を使えません。

 

というのは、生活保護の趣旨は、生活保護受給者の自立促進であり、家賃の代理納付は生活保護費を事実上の「天引き」してしまうことは、生活保護法の趣旨である「自立」に反するといえます。

 

また、代理納付を導入するにあたって、自治体によっては事務量が増えてしまうという問題があります。

どの自治体も財政難であることから、公務員の数が慢性的に不足しており、生活保護のケースワーカーも同様です。

それゆえに、代理納付を導入する余裕がない自治体が多いために、代理納付が普及しないわけです。

 

 

【落とし穴2】生活保護利用者が長期入院するリスク

 

代理納付制度はあくまでも、家賃を福祉事務所が本人に代わって、住宅費に係る保護費を直接振り込むという制度ですが、当然ながら、保護費自体が払われないもしくは減額した場合は、当然、家主にも振り込まれません。

 

例えば、生活保護利用者が1カ月以上入院した場合は、生活保護費自体が減額します。

この結果、生活保護利用者が入院している間は、生活保護費が支払われなくなることで、結果として、家主にも家賃が振り込まれなくなるわけです。

 

この時、勘違いした家主が福祉事務所に乗り込んできて家賃を払わされようしますが、福祉事務所自体が払う道理がないので、家主が直接、生活保護費利用者に家賃を請求しなくてはいけません。

しかし、どの病院に入院しているかということは、福祉事務所は個人情報保護の観点から伝えることができないので、結局、家主は何もできずに、退院するのを待たなくてはなりません。

 

このように代理納付制度を活用していても、家賃が滞納する可能性があることは頭に入れておくべきでしょう。

とはいえ、生活保護向けの不動産投資をしている人(もしくは興味がある人)でも、ケースワーカー経験が無ければ、そもそもの生活保護法に疎い(知らない)場合が多いです。

なので、生活保護不動産投資で、代理納付制度さえ使えば、あとは取りっぱぐれが無い、と思うのは早計です。

 

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生活保護の家賃代理納付制度を利用する方法は?

まだまだ全国的に普及していない代理納付制度ですが、実際のところ、担当のケースワーカーに相談すれば、代理納付制度が利用できる可能性があります。

もちろん、福祉事務所の方針として代理納付制度を行わない方針を示していたり、代理納付制度が利用できる要件に合致していない場合は、利用することはできません。

しかし、代理納付制度は家主にとって、家賃の滞納リスクを抑えることができるので有効な手段といえます。

なので、一度はケースワーカーに代理納付制度が使えないかどうか確認すると良いでしょう。

 

ちなみに代理納付制度を導入している加古川市の場合は、家賃を滞納している場合は代理納付制度を利用することができます。

ここで、加古川市の申し込み方法について抜粋します。

 代理納付の実施については、家主又は管理業者の方と生活保護受給世帯の両方からの申込みが必要です。
家主又は管理業者の方は、「住宅扶助費代理納付依頼書兼口座振込依頼書」を、生活保護受給世帯は「住宅扶助費代理納付申込書」を加古川市福祉事務所へ提出してください。また、代理納付の開始後に変化が生じた場合、家主又は管理業者の方は「住宅扶助代理納付変更届出書」を提出してください。

 

つまり、代理納付制度の導入には、家主だけではなく、生活保護受給者の同意も必要であり、申込書が両者から必要というわけです。

 

ただし、加古川市のように代理納付制度が確立している自治体はまだまだ少数ですので、不動産がある福祉事務所に確認しましょう。

 

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