自治労って左翼でしょ?秘密結社でしょ?
自治労という組織は、誤解されやすい組織です。
実際は単なる公務員の労働組合の全国組織にすぎないのですが、保守派を中心に評判が良くないです。
自治労は確かに政治的には旧社会党を支持していましたし、現在も立憲民主党を支持しており、政治思想的にはリベラルです。つまり、左翼です。
そんなリベラルな労働組合である自治労は、当然保守派には攻撃されますし、今回紹介する「自治労の正体」は徹底的に自治労を批判します。
「自治労をぶっ潰す!」
これが、本書の伝えたいテーマと言ってよいでしょう。
だから、自治労の現役組合員は、あまりいい気持ちはしませんし、実際自治労傘下の組合員である私も読んでいて、良い気持ちはしませんでした。
だけど、自治労の組合員だからこそ読むべきなんですよ。
本書は、保守派による自治労嫌いの自治労バッシングの本ですが、日本国内では数少ない自治労分析の著書です。
この本はこんな人におすすめ
そもそも自治労とは何?
自治労というのは、正式名称「全日本自治団体労働組合」の地方公務員の職員団体(労働組合)の全国組織です。
組合員数は全国で79万人であり、組合員から集めた豊富な「組合費」という資金力と、組合員を選挙にはフル動員できるマンパワーがあり、国会にも組織内議員を送りこんでいます。
一言で言えば、公務員のための圧力団体というわけです。まあ、自治労が公務員の労働組合ですから当然ですけどね。
「自治労の正体」ってどんな本?自治労の暗部をえぐり出す
自治労の正体が画期的な点は、名前は知っているけど、断片的な情報が多いし、一冊にまとめた本ってなかったんですよね。
自治労について、本来ならば自治労こそ書くべきでしたが、残念ながら保守派の著者である森口朗氏が書きました。
森口朗氏とは?
中央大学法学部卒。佛教大学修士課程(通信)教育学研究科修了。
95年~05年まで都内公立学校に勤務。
著書に『偏差値は子どもを救う』『授業の復権』『戦後教育で失われたもの』『いじめの構造』などがある。
徒党を組まない保守派。紙媒体ではじめてスクールカーストに言及した。
面白いのが、著者自体が元東京都職員の公務員であり、教職員も経験している点です。元公務員だからこそ、公務員の労働組合である自治労について、突っ込んだこともかけたわけですね。
内容については、本書を読んでもらうとして、目次のタイトルからして想像ができると思います。
自治労の正体 目次
第1章 地方公務員厚遇のからくり
● 自治労幹部の天下りに規制なし
● 公務員優遇の影に自治労あり 他
第2章 過激派に蝕まれる自治労
● 自治労を象徴する沖縄平和運動家
● 過激派は公務員になれるか 他
第3章 自治労にひれ伏す首長
● 自治労に便宜供与する首長たち
● 自治労の力の源泉は政治活動 他
第4章 粉飾自治体を食いつぶす自治労
● ゾンビ自治体を自治労が食いつくす
● 粉飾決算により破たんした夕張市 他
第5章 自治労解体は日本再生の一里塚
● 杉並区長の交代で何が起きたか
● 消費税増税を求める自治労 他
著者の伝えたいことは、自治労が日本を悪くしている諸悪の根源だから、自治労をぶっ潰せ!という点です。
それもこれまでの自治労が関わった事件など、事実を取り上げているので、全くのデマというわけでもないわけです。(社会保険庁の年金問題と自治労の関係など)
ということで、自治労の概要と歴史について、新書というコンパクトなサイズでまとまっているのは、本当に貴重です。
自治労の正体の面白い点とおかしい点
自治労の正体の面白い点
自治労の力の源泉ともいえる「組合費」「組合専従」「組合事務所」についてクローズアップしている点も必読です。
特に組合費については、自治労の財政的基盤を支える重要な要素といえますので、組合費について書かれているのは、興味深いです。
また、自治労の黒歴史といえる、大阪市役所や社会保険庁のヤミ専従問題についても書かれており、自治労の幹部は耳が痛い話題ばかりです。
実際、自治労のイメージを悪くしているのは、ヤミ専従だと思いますので、これらの点は真摯に自治労は向き合うべきでしょう。
細かいことは本書を読んでほしいのですが、自治労幹部の天下り先として、ろうきんとこくみん共済は正しいといえます。
私も自治労の役員をしていますが、自治労県本部の委員長の天下りとして、ろうきんの理事か、こくみん共済の理事は指定ポストなんですよね。
自治労の正体のおかしい点
やはり保守派が書いているからか、自治労=過激派の組織というイメージを抱いているようです。
実際、本書では「自治労は過激派の巣窟」と言い切っていますので、おいおい・・という気持ちを抱きました。
毛沢東思想やスターリン思想なんて、今時の若手の自治労組合員は知りませんし、そんな過激思想は少なくとも地方の自治労県本部単位では共有されていません。
また自治労のひれ伏す首長というのも、かつては大阪市や京都市といった関西を中心に存在していましたが、いまでは大阪維新の会の登場により、もはや自治労の力は低下しているのが正直なところです。
著者としては、自治労を得たいの知れない仮想敵として設定したいようですが、公務員を取り巻く環境は、行政改革による公務員の定数削減と国政の自民党一強体制、また関西を中心にした大阪維新の会の猛威によって、厳しくなっています。
【まとめ】新書で手ごろに自治労を学ぶにはコスパが良い
自治労の正体を出版しているのが産経新聞グループの育鵬社であることから、やはり、リベラルに対してバイアスがかかっていたり、攻撃する内容が多いです。
とはいえ、自治労について知りたいならば、本書は必読です。
しかも、ハードカバーではなく、新書で読むことができるのは、ほんとうに貴重といえます。
自治労は、本書を読んで、自治労が抱えていたヤミ専従問題に対する総括や、過激派というレッテルに対して誤解を解く努力をするべきでしょう。
地域に根差す労働組合である自治労だからこそ、ブラックボックス化しない姿勢が重要です。自治労が隠そうとすればするほど、本書「自治労の正体」の価値は高まるのですから。
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現役の自治労組合員である私なりに、自治労についてまとめました。
。残念ながら神戸市役所の組合でもヤミ専従の問題がありました。その代償として、自治労の力の源泉である組合費天引(チェックオフ)を失うハメになりました。