自治労に悪のイメージを与えた社会保険庁の「年金記録漏れ」事件を振り返る

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自治労と検索すると、ただの公務員労組にすぎない自治労が、まるで悪の組織のように書かれていることがあります。

確かに自治労は79万人の組合員を誇り、巨大な組織力を誇りますが、基本的には公務員労働者の雇用改善と維持を目的の労働組合ですが、自治労のイメージを悪化させたのは、間違いなく2007年の社会保険庁で明らかになった年金記録漏れ事件です。

この年金記録漏れ事件において、やり玉にあがったのが、自治労であり、自治労が年期問題の元凶のように報道したメディアもありましたし、実際に政権与党だった自民党は主張しました。

そこで、現在の自治労に負のイメージを与えた年金記録漏れ事件を振り返りたいと思います。

 

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社会保険庁の年金記録漏れ事件とは?

そもそも、年金制度については、現在の日本年金機構の前身にあたる社会保険庁が管理していましたが、基礎年金番号と個人情報を紐づける過程で、年金加入者の約5000万件が完了していないことが明らかになりました。

 

ちなみにこれは、2007年に社会保険庁改革関連法案の審議中に、当時の民主党議員だった長妻昭議員が指摘した「宙に浮いた5000万件」おいて、大きくクローズアップされました。

結果として、コツコツ年金保険料を支払ってきたのに、それが記録されていなかったため、年金が支給されなかったり、受給額が誤っている場合もありました。

老後の生活保障の役割を担う年金制度について、杜撰な管理がなされていたことは、国民の強い反発を受けて、当時の安倍内閣の支持率は大きく下落し、参議院選挙でも逆風となりました。

 

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年金記録漏れ事件の原因は自治労?

この杜撰な年金記録漏れ事件に関する批判の矛先を、社会保険庁ではなく、その労働組合である自治労に向け始めました。

社会保険庁には自治労国費評議会という労働組合があり、1979年に社会保険庁の当局と以下のような覚書をかわしました。

 

覚書の内容

・連続操作時間は45分以内として、15分の操作しない時間を設ける

1人1日平均5000タッチ以内として、最高10000タッチ以内とする

・労働強化にならないように十分配慮する。

『社会保険庁と自治労国費評議会が締結していた覚書、確認事項等』についての総括

 

なおこの覚書は、年金記録漏れ事件が明らかになる前にすでに破棄されていましたが、世間の公務員バッシングと相まって、非常にセンセーショナルに報道されました。

 

年金業務の合理化反対運動

先ほどの社会保険庁と自治労の覚書の背景には、自治労が主導した公務員職場のコンピューター導入反対運動でした。その一環として、覚書があったわけです。

今では考えられませんが、雇用を守るという大義名分で、あえてコンピューターを導入して効率化を防ぎ、無駄をなくさない反合理化・反機械化運動を展開しました。

こういうことをするから、自治労に対して不満を抱く職員や組合に悪いイメージを抱く原因を作る結果になるんだと思います。

もちろん、現在の自治労はこのようなトンデモない要求はしませんが・・

社会保険庁で自治労幹部は出世コースだった

また、当時の社会保険庁において、自治労の幹部を卒業すると、当局の幹部や社会保険事務所長になれる、いわゆる出世コースだったわけです。

よって、自治労に目をつけられず、逆に自治労に従うことは自身の利益になるという構造があったわけですね。なので、当時の社会保険庁には自治労に文句を言えない雰囲気があったと推測できます。

ちなみにこれは地方自治体でもよくある話で、組合幹部は出世しやすいパターンがありますね。

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年金記録漏れ事件は自治労だけが悪いのか?

そんな社会保険庁の自治労傘下の組合である自治労国費評議会は、現在は自治労社会保険関係労働組合連合と名前を変えて、現在も存続しています。

ここで、確認したいのが自治労もあくまで労働組合なので、当然ながら組合員の雇用環境が良くなる方向で考えるのは当然です。

なので、当局側も組合側の要求が不当だったり、運営上問題があれば反対するのですが、当局も認めて合意していたので、すべて自治労が悪いとはならないと思います。しかし、残念ながらこの年金記録漏れ事件において、全国的に自治労の悪名が広く広がる結果となりました。

自治労が主導して、わざとラクして、面倒なことを先送りしている悪の組織というイメージを国民に与えて、自治労のネガティブイメージがついて現在に至るわけですね。

 

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