「ながら条例」は不正の温床?現役の職員団体の役員として思うこと

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職員団体(労働組合)の活動をしている公務員にとって、「ながら条例」という言葉は知らない人はいないほど、重要な条例であることはいうまでもありません。

 

ただ、全国的に注目されている神戸市のヤミ専従問題を発端に、この「ながら条例」を問題視する声もあがっております。確かに、神戸市のヤミ専従問題は、これまでの執行部と組合の経過があったにせよ、許すことはできないと思います。

 

しかし、その一部の事例だけで、「ながら条例」そのものへの攻撃につながるのは間違っていると思います。そこで、今回は誤解も多い「ながら条例」の解説はもちろん、その意義と問題点について書きたいと思います。

 

また、「ながら条例」に関連して、神戸市で問題になった「ヤミ専従」にも少し触れたいと思います。

 

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そもそも職務中の組合活動は違法

 

まず、ながら条例について解説しますが、そもそも「ながら条例」という名称の条例はありません。正式には「職員団体のための職員の行為の制限の特例に関する条例」というものです。

 

条例ですので、各自治体単位で制定されるものであり、法律ではないという点にご注意ください。では、なぜ「ながら条例」を制定するのか?というと、そもそも地方公務員が、勤務時間中に職務以外をすることは地方公務員法35条に違反しているのです。

 

(職務に専念する義務)
第三五条 職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。

 

よって、組合活動を職務時間にする場合は、無給です。いわゆるノーワークノーペイの原則です。

 

また、地方公務員法第55条の2第6項において、ずばり職員団体の業務を給与を受けながらできないこととなっています。

 

(職員団体のための職員の行為の制限)
第五五条の二 職員は、職員団体の業務にもつぱら従事することができない。ただし、任命権者の許可を受けて、登録を受けた職員団体の役員としてもつぱら従事する場合は、この限りでない。

6 職員は、条例で定める場合を除き、給与を受けながら、職員団体のためその業務を行ない、又は活動してはならない。

 

以上の地方公務員法の条文によれば、勤務時間中に組合活動をすることは、一発アウト!という感じですが、注目すべきは、地方公務員法第55条の2第6項にある「条例で定める場合を除き」という箇所です。

 

この地方公務員法に書いている「定める条例」というのが、本日のテーマ「ながら条例」というわけです。

 

つまり、このながら条例のおかげで、本来無給であるはずの組合活動についても、有給となるわけですね。

 

ちなみに、「職員団体のための職員の行為の制限の特例に関する条例」が「ながら条例」といわれる所以は、給与をもらい「ながら」組合活動を行える条例という意味だからです。

 

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「ながら条例」の重要な4つのポイント

 

では、この「ながら条例」でどのようなことが規定されているかというと、以下の4つのポイントです。

 

(1)地方公務員法第55条第8項の規定に基づき、適法な交渉を行う場合
(2)休日及び休日の代休日
(3)時間外勤務代休時間
(4)年次有給休暇ならびに休職の期間

 

ここでポイントは(1)の(1)地方公務員法第55条第8項の規定に基づき、適法な交渉を行う場合は、職務時間中であっても給与の支給対象となります。(ちなみに、私の自治体では勤務時間外に組合交渉は行います。)

 

また、(2)から(4)については、そもそも職務に専念する必要がないので、職務専念義務に反しないし、給与も減額されません

 

この「ながら条例」のおかげで、地方公務員法で規定される職務専念義務から解放され、安心して組合活動ができるわけですね。

 

なぜ「ながら条例」が不正の温床となったのか?

 

組合活動を安心して、適法にできる「ながら条例」ですが、これを拡大解釈して悪用する組合が現れました。

 

先ほどの「ながら条例」のポイントにおいて、適法な交渉を行う場合は勤務時間内でも可能としました。この適法な交渉をするにあたり、組合内部で話し合ったり、会議をするとした、適法な交渉前の「準備行為」も勤務時間内で行える自治体がありました。

 

結果、この準備時間を交渉に関係無いのに、実態は組合の集会や、大会を行っていたケースがありました。準備行為を拡大解釈したわけですね。

 

つまり、ながら条例が不正の温床となったのは、適法な交渉の「準備行為」というグレーゾーンによるものです

 

 

「ながら条例」の悪用よりもタチが悪い「ヤミ専従」問題

 

「ながら条例」自体は悪法でもなんでもなく、職員団体として大事な組会活動を保証するために重要な条例ですが、それを悪用する一部の職員団体のせいで悪い印象を抱いている人もいると思います。

 

また、この「ながら条例」を悪用するだけでなく、さらに悪質な「ヤミ専従」という問題にも発展しました。基本的に、組合活動中は、職務専念義務からは免除されますが、無給扱いです。

 

組合活動をする場合は、職場の所属長に事前に許可をもらうことが条件としていますが。このヤミ専従というのは、無断で職場から抜け出して、組合活動をしていることが問題となりました。もちろん、無給のはずなのに、しっかり給与を受け取っていました。

 

これが過去に大阪市で問題となり、最近も神戸市で問題となりました。

 

神戸新聞NEXT

市職員が組合活動に専従する際は、地方公務員法に基づいて年度ごとに市長の許可が必要となり、専従期間中は無給となる。

しかし、市関係者によると、役員の1人は15~17年度、許可を得るための手続きがされていないのに所属部署にはほとんど出勤せず、事実上業務に携わっていなかった。同様に専従許可を取っていない別の役員は18年度、いったん所属部署に出勤するものの、ほぼ連日午前中のうちに職場を離れていたという。

この役員2人は通常勤務扱いのまま給与を受け取っていたという。市人事課によると、18年度は市職労本部の役員12人のうち専従は3人。残りの9人について「勤務実態はこれまで把握してこなかったが、詳細な調査を行う」とした。

 

このヤミ専従問題は、非常に根深く、組会活動に税金で給与が支出されていたのですから、職員団体に対する社会のイメージを悪くしました。

 

しかし、全国にいる大半の組合専従職員は、しっかりルールに則って組合活動を行っています。それゆえ、今回の神戸市のヤミ専従問題は、職員団体として活動をしていても、非常に残念なニュースです。

 

ながら条例は、労働者の権利を守るために必要な労使交渉を制度面からサポートする重要なルールです。それゆえ、職員団体としてはこの意義は十分にあると思います。

 

だからこそ、神戸市のように悪用しないように自戒の念を組合全体で共有する必要がありますね。

 

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